日本で承認されている製剤は、破傷風トキソイド(TT)、ジフテリアトキソイドと破傷風トキソイドを混合した二種混合(DT)、二種混合に精製百日咳ワクチンを加えた三種混合(DTaP)、更に不活化ポリオを加えた四種混合(DTaPIPV)の4種類です。全て免疫増強の目的で6水和塩化アルミニウムアジュバントが添加された沈降製剤です。外国ではHibワクチンを加えた四種混合(DTaP Hib)、B型肝炎ワクチンを加えた四種混合(DTaPHepB)などとか、両方を加えた五種混合(DTaPHibHepB)、更に不活化ポリオワクチンを加えた六種混合(DTaPHibHepBIPV)などが製造されています。
破傷風、ジフテリア、百日咳は世界中どこでも感染リスクがあります。海外旅行の場合は必ず母子手帳の予防接種記録を確認してください。
三種混合の接種記録があれば追加接種を受け、ない場合は基礎免疫接種と初回追加を受ける必要があります。
破傷風菌は草食動物の腸管内に生息するクロストリジウム属の嫌気性細菌です。排泄された菌の芽胞が土壌中とか埃に含まれ、草と一緒に次の動物に取り込まれ、栄養分が豊富な無酸素状態の腸管内で盛んに増えて排泄されるというライフサイクルの微生物です。主に皮膚の傷口から感染し、菌が産生する神経毒(tetanopsasmin)が筋肉の痙攣性麻痺(硬直)を起こします。開口障害、痙笑などの初期症状から始まり、約80%が死亡率10-20%の全身性破傷風に発展します。
ジフテリア菌と百日咳菌は喉の辺りで増え、新型コロナウイルス感染症(Covid-19 )と同様に飛沫感染で広がります。保菌者から知らないうちに感染する危険もあります。ジフテリアはジフテリア菌が産生する細胞障害性毒素(diphtheria toxin)による病気で気道閉塞、心筋炎、神経障害などを起こします。百日咳は初期の風邪症状から特徴的な激しい咳き込み(発作性けいれん性咳嗽)が始まり、咳の発作が2~3か月間続く病気です。生後6か月未満の百日咳は呼吸停止を起こす危険があり、2~3歳頃までは肺炎や脳症を合併することがあります。大人は百日咳菌に感染しても無症状か軽症ですが子供に感染させる危険があります。
一般財団法人阪大微生物病研究会(阪大微研)の破トキ「ビケンF」(TT)とトリビック(DTaP)の2種類
DTaPは生後2か月から8歳未満が適用年齢です。接種量は0.5mL、接種部位は上腕皮下です。TTとかDTaPはアルミニウムアジュバントが添加された沈降ワクチンなので皮下接種より筋肉内接種の効果が優れています。外国では筋肉内接種です。
定期接種の基礎免疫は生後2か月から約1か月間隔で3回、初回追加は約1年後です。2回目の追加は10年後の11歳児に行うので、適用が8歳未満のDTaPは使用できません。日本では2種混合(DT)を0.1mL減量接種していますが、外国にはジフテリアトキソイドを減量配合した8歳以上用の二種混合ワクチン(Td)があり、0.5m接種しています。その後ジフテリアトキソイドと百日咳抗原の2種類を減量配合した新しい3種混合(Tdap)が開発され、11歳児とか大人の追加に使用されています。
母子手帳に三種混合の接種記録が無い渡航者はTdapを用い、1か月間隔2回の基礎免疫接種を行い、6か月以上経過後に初回追加を行うのが良いでしょう。その後の追加はTT又はTdapを用い、10年毎に行います。最近、大阪大学微生物研究会(阪大微研)が製造した三種混合ワクチン(DTaP、商品名トリビック)の適用年齢が8歳以上に拡大されたのでこのワクチンを使用しても良いでしょう。
添付文書には、初回追加接種後の百日咳毒素(PT)と繊維状赤血球凝集素(FHA)に対する抗体価が追加前の約50倍に達し、発症防御抗体レベル以上の抗体獲得を認めたこと、また、家族内二次感染の発症防御効果が88.9%であり、ジフテリアと破傷風に対する抗毒素調査においても良好な抗毒素価の上昇が見られたと記載されています。外国では初回追加後の百日咳発症防御効果の持続が短いためか4~6歳児にDTaPの2回目追加が行われ、11歳児のTdap追加は3回目になります。
注射部位の赤い腫れ、痒み、痛み、しこり、頭痛、発熱、悪寒などが100人に5人程度認められます。 重大な副反応は極めてまれです。
三種混合ワクチンの開発当初は不活化した百日咳菌が使用されていました。このワクチンは接種後に高熱を発し熱性けいれんを起こし易い厄介な製剤でしたが、百日咳菌を分解して有効成分を分離精製する技術が日本で開発され、沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチンの使用が始まりました。新しい三種混合ワクチンの安全性と有効性が認められ、世界中の三種混合ワクチンが不活化百日咳菌体を使用する製品(whole cell vaccine、DTwP)から菌体を含まない(acelluler vaccine、DTaP)に転換しました。これは日本がワクチン先進国だった頃の話です。
日本脳炎ウイルスは日本で発見され日本脳炎ワクチンも日本で開発されました。現在の日本の日本脳炎ワクチンは北京株ウイルスをアフリカミドリザル腎由来のVERO細胞に接種し、増殖したウイルス粒子を集めて精製し、ホルマリン不活化後、乳糖水和物、グリシンなどを加えて凍結乾燥したもので、保存剤、防腐剤、免疫増強剤などが無添加の優れものです。
日本脳炎ワクチンは世界各地で作られています。インドのBharat Biotech社の製品(JENVAC)はインドで分離された日本脳炎ウイルス株を、日本の製品と同様にVERO細胞培養に接種し、増殖したウイルス粒子を集めて精製・不活化して作られています。日本製品と同様に凍結乾燥された防腐剤無添加製品ですが、免疫増強のためにアルミニウム塩が添加された沈降ワクチンです。
日本脳炎は蚊が媒介する病気です。日本ではブタとヒトを好んで吸血するコガタアカイエカが主要な媒介昆虫とされています。日本脳炎は、西はパキスタンから東はオーストラリア北部、北は中国東北部からシベリア沿海州にかけた広大な地域の病気です。日本は分布地域の辺境に位置し、東北地方が北限です。秋田県、青森県、北海道などでは日本脳炎が発生しないので定期予防接種は行われていません。日本ではコガタアカイエカが発生する夏季の病気ですが、年中吸血蚊が発生する熱帯では病気も年中発生しています。
予防接種により日本では稀な病気になっていましたが、使用ワクチンが感染マウス脳由来製剤であったために急性散在性脳脊髄炎(ADEM)との関連性が疑われ、2005年に勧奨接種が中止されました。2010年に新しい細胞培養製剤が認可され、勧奨接種が再開されるまでワクチンの接種を受ける人が極度に減少した時期があり、この時期のワクチン無接種者間に日本脳炎患者が発生し、予防接種の重要性が再確認されました。
下の国立感染症研究所のウエブサイトの感染症流行予測事業ページに日本脳炎の中和抗体価保有情報が公開されています。2020年度の調査グラフには30歳以降に急激な保有率の低下が示されています。アジア方面に出かける30歳以上の人は予防接種が必要です。母子手帳に日本脳炎の予防接種歴が記載されていれば追加接種、記載がない場合は基礎免疫から開始しましょう。
KMバイオロジクス(KMB)社のエンセバック、阪大微研のジェービックV、Bharat Biotech社のJENVACの3種類
日本脳炎ワクチンの適用は生後6か月以上です。接種直前に同梱されている注射用水0.7mLを加えて溶解します。
用量は、3歳未満は0.25mL、3歳以上は0.5mLです。接種部位は上腕皮下、基礎免疫接種は2‐4週間隔2回、初回追加は約1年後、以後の追加は5-10年毎です。
北海道、秋田県、青森県など定期接種が実施されていない地域の人の事後接種は基礎免疫から開始してください。
添付文書に、基礎免疫(2回接種)後の抗体陽転率は100%、平均抗体価は1:335であり、初回追加後は1:7345に上昇し、自然感染阻止中和抗体価(1:10)以上の抗体価が長期間(約10年)保持される見込みと記載されています。
注射部位の赤い腫れ、痒み、痛み、発熱などが主な副反応です。発熱は幼児に多い様です。添付文書に「3歳未満の262名の約30%に軽度発熱(直腸温:38-39℃)、34%に中等度発熱(直腸温:39-40℃)を認め、40℃以上は0%であった。」と記されています。ADEM、MS等の重大な副反応の頻度は不明とされています。
日本で認可されたワクチンはアフリカミドリザルの腎由来培養細胞を用いる製剤です。A型肝炎ウイルスKRM003株を細胞培養で増やし、増殖ウイルスを分離・精製後にホルマリンで不活化し、乳糖、アルギニンなどのアミノ酸類などを加え、リン酸緩衝疫を用い、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原蛋白量が1.0µg/mLになるように希釈調整し、凍結乾燥したものです。保存剤、防腐剤、アジュバントなどは無添加です。このワクチンは著者らが世界に先行して国立感染症研究所で開発したもので、我々の方法にならい多数の国で細胞培養不活化ワクチンが製造されています。
渡航時の必要性:A型肝炎は経口感染性の病気です。病原ウイルスは口から入り患者の肝細胞で増え、胆管に入り、胆汁により腸管内に運ばれ、体外に排泄されます。ウイルスに汚染された飲食物が誰かの口から入り新規感染が起きますが、入らなければ何も起きません。糞口感染は手洗いの励行、上下水道の整備などにより止まります。1973年の日本人の年齢別抗HAV抗体調査により、10歳未満には抗体がないこと、15歳頃から40歳にかけて年齢と共に保有率が上昇して80%に達することが明らかされ、日本はA型肝炎の高汚染国であったが、発生が減少し15年以上極めて少ない状態が続いていると判断されました。その後の同様な調査により年齢依存性抗体保有が年々高年齢にシフトすることが示されています。現在では60歳未満の日本人の95%以上がA型肝炎に対する抗体を保持せず、ウイルスに暴露されると即感染する危険な状態です。
A型肝炎は慢性化しないので深刻ではないとの見解がありますが、1~2か月の入院治療が必要な重い病気です。上下水道が未整備とかメンテナンスが悪い地域への旅行者は必ず予防接種を受ける必要があります。日本人はHAVの暴露により即感染する状態なので、世界中に危険があると考えたほうが良いでしょう。HAVは非常にタフなウイルスです。過酸化水素とか酸素塩素系消毒薬は有効ですがコロナウイルス対策用のエタノール消毒薬は無効です。80℃以上でなければ不活化しないので、旅行中は生水・生ものは避け、良く火の通った食事を心がけてください。欧米先進国に出かける場合でも長期滞在予定者は予防接種を受けて出発するのが安全です。
KMB社のエイムゲン(Aimmugen)
生後12か月から適用されます。注射用水0.65mLを加えて溶解し、上腕三角筋内又は上腕部皮下に0.5mL接種します。基礎免疫接種は2~4週間隔2回と添付文書に記載されていますが1回で十分です。追加接種は初回から6~12か月の間に行います。
初回接種の約10日後から感染防御抗体(抗HAV抗体)が出現します。陽転率は100%、持続は6か月以上です。6か月以降の追加接種により抗体価が顕著に上昇し10年以上の持続が見込まれます。
主な副反応:注射部位の痒み、痛み、赤い腫れ、しこりなど。頻度は100人に1人程度。重大な副反応は極めて稀です。
B型肝炎ウイルス(HBV)キャリアーの血液中の直径22nmの小型HBs抗原粒子を利用した血液由来ワクチンが最初に開発されました。後に、キャリアー血液中の直径40nmの大型抗原粒子(デーン粒子)が2本鎖DNAを持つHBV粒子であること、ウイルス遺伝子を真核細胞である酵母のDNAに組込だ組換え酵母が直径22nmの小型抗原粒子を産生することなどが分かり、現在の組換え酵母由来ワクチンが開発されました。
B型肝炎の感染源はウイルス保持者の血液とか体液です。輸血、血液製剤、性交渉などの濃厚接触、汚染された注射針などから感染します。年齢により病態が異なり、大人は急性肝炎を発症して治癒しますが、生下時とか幼児期の感染は無症状のウイルス保持者になります。無症状のまま一生過ごすものもいますが、思春期頃から肝炎を発症する様になり、自然に治癒する者、劇症化して死亡する者、慢性肝炎になる者に分かれ、慢性肝炎患者は長期間経過後に肝硬変・肝がんを発症します。これがB型肝炎の自然経過です。抗ウイルス剤治療により病気の進行を抑えることが可能になりましたが、B型肝炎は現在も大変厄介な病気です。
日本ではキャリアー妊婦から生まれる児のワクチン接種により新規キャリアーの発生が無くなり、輸血用血液のHBV汚染排除により新規感染もなくなりました。しかしながら大人の感染が慢性化する変異ウイルスが存在し、輸血感染対策が不十分な国もあります。旅行先に関わらず予防接種を受けて出発してください。
KMB社のビームゲン(Bimmugen)、GlaxoSmithKline(GSK)社のEngerix-Bの2種類
ビームゲンは組換え酵母から直径22nmのHBs抗原粒子を抽出・精製し、ホルマリン処理後にアルミニウム塩0.25mg、防腐剤のチメロサール5µgを加えた沈降ワクチンです。接種量0.5mL当たりのHBs抗原蛋白量は10µgです。Engerix-Bも組換え酵母由来沈降ワクチンです。Enjerix-Bには接種量が0.5mLの20歳未満用10µg製剤(Engerix-B Jr)と1.0mLの20歳以上用20µg製剤(Engerix-B Adt)があります。
ビームゲンは生後2か月から適用です。10歳未満は0.25mL、10歳以上は0.5mL、上腕皮下又は筋肉内に接種します。接種回数は1か月間隔2回と6か月後の3回目です。生下時接種は0.25mLの上腕皮下接種で、同様に3回行います。海外渡航者専用Engerix-Bは年齢に応じて0.5mL又は1.0mLを上腕三角筋に接種します。
効果と持続期間:基礎免疫(4週間隔2回)後の感染防御抗体(抗HBs抗体)の陽転率は25-50%程度。6か月後の追加接種後に95%に上昇し10年以上持続します。
Engerix-Bには標準法と急速法があり、標準法は4週間隔2回の基礎免疫接種と6か月後の追加計3回、迅速法は0日、1月、2月の3回と12か月後の追加計4回です。急速法の抗体陽転率は開始から3か月後に89%、追加後は両法とも95%以上、持続は10年以上と記載されています。
注射部位の、赤い腫れ、痒み、痛み、しこり、など。頻度は100人に1人程度。重篤な副反応は極めて稀です。
狂犬病は動物に咬まれて発病する病気で、発症後の死亡率は100%です。豪州、ニュージーランド、英国、日本、小さな島国を除き、世界の大部分が危険な地域です。危険地域では、イヌ、ネコ、などの身近な動物から、リス、サルなどの観光地の動物、日本でも見かけるようになったアライグマなどの小型野生動物など、咬みつく動物は全て危険です。コウモリは特に危険とされています。
日本に無い病気なので、危険地域に長期滞在予定者は予防接種を済まして出国し、滞在中は動物に咬まれないように注意してください。狂犬病ウイルスは感染動物の唾液中に排泄されているので皮膚の傷とか目口に入ると危険です。獣医師、研究者、動物保護管理者など動物取扱者は短期滞在でも必要です。滞在中に動物に咬まれた場合は予防接種を受けていても暴露後免疫治療が必要です。世界保健機関(WHO)が狂犬病の暴露前予防接種、暴露後免疫治療などの指針を公表しています。
ラビピュール(Rabipur)とVerorabの2種類
どちらもWHO規格に合致した製品です。ラビピュールはドイツのBehring社が開発した後、所属が次々に代わり、現在はGlaxoSmithKline社ですが、Bavarian Nordic社に代わる様です。VerorabはSanofi Pasteur社の製品です。KMB社が日本独自の規格品を製造していましたが中止しました。
ラビピュールは狂犬病ウイルスFlury LEP株を初代ニワトリ胚培養細胞(PCEP)で増やし、β-プロピオラクトンで不活化後に遠心分離法で濃縮・精製して作られた凍結乾燥ワクチンです。Verorabはウイスター株をVero細胞培養で増やし、同様の方法で不活化後に濃縮・精製・凍結乾燥した製品です。
ラビピュール (Rabipur) |
Verorab | |
製造会社(所在) | GSK社(ドイツ) | サノフィパスツール社(フランス) |
---|---|---|
使用ウイルス | Flury LEP(低継代)株 | PM/W138 1503-3M株(ウイスター株) |
細胞培養 | 初代ニワトリ胚培養細胞(PCEC) | アフリカミドリザル腎由来細胞(Vero) |
主な添加物 | 蔗糖、アミノ酸、ポリジェリンなど | 麦芽糖、アミノ酸、ヒトアルブミンなど |
抗原力価 | 2.5IU/1.0mL以上(国際基準) | 2.5IU/0.5mL以上(国際基準) |
最終製品 | 凍結乾燥品 | 凍結乾燥品 |
動物に咬まれる前の基礎免疫は0、7、21又は28日の3回、初回追加は1年後、その後は5年毎です。毎回ワクチン毎の指定量を指定場所(0歳児は大腿筋、1歳以上は三角筋)に接種します。WHO承認のタイ赤十字社レジメはVerorabを上腕皮内に、上記4回0.1mL宛接種します。
暴露後免疫治療(危険地域で動物に咬まれた場合など):Verorabの添付文書に記されている健常者が動物傷害を受けた場合のワクチンと免疫グロブリン接種(WHO指針)の要約を下表にまとめました。
【健常者が動物傷害を受けた際のVerorab接種と免疫グロブリン処置】
事前予防接種 | ワクチン接種(三角筋又は皮内) | 免疫グロブリン |
---|---|---|
完了 | 不要 | 不要 |
未完、未接種 | 不要 | 不要 |
事前予防接種 | ワクチン接種(三角筋又は皮内) | 免疫グロブリン |
---|---|---|
完了 | D0, D3(皮内レジメは当事国の承認方法) | 不要 |
未完、未接種 | エッセンレジメ(筋肉内):D0,D3,D7,D14,D28 ザグレブレジメ(筋肉内):D0(左右),D7,D21 タイ赤十字社(皮内2か所宛):D0,D3,D7,D28 |
不要 |
事前予防接種 | ワクチン接種(三角筋又は皮内) | 免疫グロブリン |
---|---|---|
完了 | D0, D3(皮内レジメは当事国承認方法) | ヒト製剤(20IU/kg体重)又はウマ製剤(40IU/kg体重)を受傷当日(D0)にワクチン接種と違う腕に注射 |
未完、未接種 | エッセンレジメ:D0,D3,D7,D14,D28 ザグレブレジメ:D0(左右),D7,D21 タイ赤十字社:D0,D3,D7,D28(皮内2か所宛) |
頭痛、発熱、倦怠感、注射した場所の赤い腫れ、痒み、痛み、蕁麻疹などです。頭痛と発熱は100人に1人未満、赤い腫れ、痒み、痛みは100人に数人程度で、放置しても2-3日で消失します。重大な副反応は極めて希とされています。
腸チフスは腸チフス菌の経口感染による熱病です。細菌感染症なので抗生物質治療が有効であり軽視されていましたが、最近、抗生物質が効かない抵抗菌が出現し、予防接種が推奨されています。東アジア、東南アジア、大洋州島嶼地域、南アジア、中近東、アフリカ、中南米などが主な発生地です。これらの地域に渡航する場合は予防接種が必要です。糖鎖抗原(Vi抗原)ワクチンと弱毒経口ワクチンの2種類の製剤があります。
Sanofi Pasteur社のTyphim Vi(糖鎖抗原ワクチン)
腸チフス菌(Ty2株)の培養液からVi抗原を抽出・精製した製剤で、0.5mL中のVi抗原量は25µg。主な添加物はフェノール(0.25%)です。日本では承認されていません。
適用は2歳以上です。接種量は0.5mL、接種部位は上腕の筋肉内又は皮下です。
効果と持続期間:接種の約10日後から抗体が上昇し、抗体獲得率は88%以上、発病阻止率は74%以上ですが、1年後から抗体が徐々に低下します。本剤は多糖体製剤なので追加接種後の強い抗体上昇とか免疫持続期間の大幅延長はありません。3年毎に接種を繰り返す必要があり、毎回、最初の接種後と同様の免疫経過が繰り返されます。
注射した場所の、赤い腫れ、痒み、痛み、しこりなど。頻度は100人に5人程度。まれに、腹部の違和感、吐き気、発疹、蕁麻疹などが現われることがある。重大な副反応は極めて希です。
ダニ媒介性脳炎(Tick-Borne Encephalitis, TBE)はTBEウイルス(TBEV)を保持マダニに刺されて発病する病気です。TBEVは日本脳炎ウイルスに近縁なウイルスです。
マダニに受け継がれていて、自然界では吸血された小型のげっ歯類から大型の哺乳類が感染しています。
媒介マダニはフランス東部からユーラシア大陸の森林地帯に分布し、病気の発生地域と重なっています。
2015年にストックホルムで多発し、調査の結果2005年頃からの発生が確認されています。TBEはマダ二が活動する春から夏に多発するので、初夏脳炎とか春夏脳炎とも呼ばれます。
遺伝子分類により、ヨーロッパ亜型、シベリア亜型、極東亜型に群分されていますが抗原的には1種類です。TBEの予防接種は発生地域に長期滞在される方にお勧めです。
Pfizer社(旧Baxter社)のFSME-Immun(別名のTicoVacは同種の製剤)
FSME-ImmunはNeudoerfl株をニワトリ胚初代培養細胞(CEF)で増やし、増殖ウイルスを不活化後に濃縮・精製し、アルミニウム塩を添加した沈降製剤です。発熱阻止と安定化の目的でヒト血清アルブミンが添加されています。保存剤は無添加です。16歳以上用の0.5mL製剤と1~15歳の0.25mL製剤(FSME-IMMUN Junior)があります。ヨーロッパ亜型の製剤ですがシベリア亜型と極東亜型の感染防止にも有効です。
適用は1歳以上、17歳未満は0.25mL、17歳以上は0.5mLを三角筋に接種します。通常免疫法と急速免疫法があります。通常免疫法の基礎免疫接種は1-3月間隔2回、初回追加は2回目から5~12か月後の間、以後の追加は5年毎です。急速免疫法の基礎免疫接種は14日間隔2回、その後は通常免疫法と同じです。65歳以上の2回目以降の追加接種は3年毎に行います。
TBE媒介ダニは春から秋に活動します。添付文書には年初に初回接種を開始すれば2回目接種をダニの活動開始前に終え、初回追加も同年のダニの活動期内か翌年の活動期前に受けることが可能になり、効果的であると記載されています。初回追加終了後の有効期間は3年以上です。
注射部位に、稀に、赤い腫れ、痒み、痛みなどが現われるが、ADEM、MS等の重大な副反応はない。3歳未満児に軽度発熱が認められるが3歳以上の発熱は稀。
1993年に北海道南部で発生した脳炎患者が抗体検査によりTBEと診断され、その後の調査により北海道では広い地域にTBEV感染歴を示す抗TBEV抗体陽性動物が生息し、極東亜型群のTBEV感染マダニが発見されています。TBEはウイーンで発見された病気です。ウイーンにはベートーベンが散策した有名なウイーンの森があります。森林のトレッキングによる感染の様子が、以前、Baxter社のTBE対策動画に使われていましたが、北海道の森にヒグマが生息しているのでTBEV保持マダニが生息していても人の感染が少ない理由かもしれません。
マラリアは熱帯・亜熱帯地域に生息するハマダラカが媒介する熱病です。潜伏期間は10日以上で、熱帯熱(falciparum)、三日熱(malarie)、卵形(ovale)、四日熱(vivax)の4種類があります。倦怠感などの前駆症状に続き、突然、悪寒を伴う39~41℃の高熱と、多尿、頭痛、吐き気などの症状が現れます。発熱が2~3時間続いた後、大量の発汗を伴い解熱します。発熱は周期的です。三日熱、熱帯熱、卵形などは約48時間毎に起き、四日熱は約72時間毎に起きます。熱帯熱マラリアは脳症を起こして死亡する最も危険な病気です。
媒介蚊がヒトからヒトへうつす病気なので蚊に刺されない対策がマラリア予防の基本です。ハマダラ蚊は雨期に多発し、日暮れから夜明けまでの時間帯に吸血する習性があります。危険地域では、長ズボン、長袖シャツの着用、露出部にムシペールαなどのディート(DEET)配合剤の塗布、蚊取り線香・蚊帳の使用などが大切です。防蚊剤を練り込んだ糸で作られた蚊帳が日本で開発されに活用されています。
流行地では抗マラリア剤の予防内服が必要です。医療機関が無い遠隔地で発病した場合には待機治療(Stand-by treatment)を行います。
マラロン(Malarone)、ビブラマイシン(Vibramycin)、メファキン(Mephaquine)などの予防薬があります。マラロンとビブラマイシンは流行地に到着する1日前から開始し、毎日1回、服用します。流行地を離れた後も、マラロンは1週間、ビブラマイシンは4週間、服用を続ける必要があります。胎児への悪影響を避けるために妊婦はマラロンとビブラマイシンを予防使用できません。乳児の害を防ぐために服用期間中は授乳中止とされています。体重5kg未満はマラロンを使用できません。8歳未満はビブラマイシンを使用できません。メファキンは流行地に入る1週前から開始。毎週1回服用。流行地を離れた後も4週間服用を続ける必要があります。マラロンとメファキンはマラリア治療にも有効ですが、ビブラマイシン単剤は無効なのでキニーネと併用します。
キニーネ、マラロン、メファキン、アーテメター・ルメファントリン(Artemether/lumefantrine)配合剤のコアルテム(Coartem)、アルテミシン(Artemisine)誘導体のコテキシン(Cotexin)などが使用可能です。待機治療は病院から遠く離れた僻地で発熱し、マラリアが疑われる場合に、自分自身を守るための応急処置です。発熱から24時間以内に開始し、病院に駆けつけます。それぞれの治療薬に使用法が指示されていますが、メファキンの場合は、多量の水を用い275㎎錠を2錠服用し、6~8時間後に、体重30-45kgは1錠、45kg以上は2錠追加服用するとされています。待機治療は時間稼ぎの応急処置です。病院に直行して正しい診断と治療を受ける必要があります。
高山病は、個人差がありますが、概ね、海抜2000メートル以上の高地で発症します。気圧が低い高地では酸素分圧(気圧x酸素濃度)が低いので、肺での赤血球の酸素の取り込みが減って酸欠状態になり、過呼吸のために流血中の炭酸ガス分圧が減り、頭痛、吐き気、めまい、睡眠障害、運動中の息切れ、疲労、脱力、頻脈、不安感、不眠などの症状が現れます。海抜5000メートル以上の高地では、症状が更に進行し、休息中の息切れ、手足のむくみ、発熱、強い頭痛、ふらつき、嘔吐などが現れ、重症になると、肺水腫や脳浮腫を起こして死亡します。高地に到着後24時間の休息、禁酒、水分補給などの順応対策が有効です。
究極の高山病対策は酸素の補給ですが、「山酔い」と呼ばれる軽い高山病にはアセタゾラミド(ダイアモックス)が有効です。飛行機を利用して海抜2000メートル以上の高地に直行する際に特にお勧めです。ダイアモックスは無呼吸症候の治療などにも使われる薬です。250mg錠を2分して、125mgずつ、朝夕2回服用します。高地に到着する24時間前に開始し、到着後48‐64時間服用します。低地に下りてしばらく滞在する場合は、高地に出かける前に服用を開始する必要があります。ダイアモックスの服用中でも、高地到着後24時間は、休息、禁酒、水分補給などに努めてください。