森次医院では海外赴任、出張、留学、ボランティア、観光旅行など、海外渡航の予防接種や健康相談などを専門に行い、往診にも対応しています。

予防接種の受け方

海外渡航時の予防接種の受け方

 日本などの先進国では感染症の発生が低く抑えられていますが、途上国は違います。観光などで訪れる旅行者の中で、特に日本人がワクチンで予防できる病気に罹りやすいと言われています。安全な海外旅行とか赴任生活を送るためには予防接種は欠かせません。ここでは海外旅行に必要な予防接種、接種回数と免疫期間、多種類の同時接種、予防接種を受ける暇が無いとか中断して長い期間が過ぎてしまった場合などの対処法、追加接種の時期、禁忌と要注意、妊娠中の予防接種、授乳中の予防接種などを簡単に解説します。皆様のご理解の一助になれば幸いです。


1.海外旅行に必要な予防接種
 旅行先により感染性疾患の種類が違います。旅行を計画する際には、罹りやすい病気を調べて必要な予防接種を選びます。感染リスクは、現地の環境、旅行形態、仕事の種類などにより変わりますが、滞在期間が長くなれば増大するので、短期旅行と長期滞在に分けてみました。


 短期旅行
 1か月程度までの短期のパック旅行の場合には旅行会社などが勧める予防接種で良いと思います。個人旅行の場合には、宿の設備が良いか悪いか、旅先が都会か田舎か、あるいは、観光地か観光地でない場所か、季節が雨期か乾期か、などにより必要性が変わります。設備が良い都市のホテルに宿泊して、観光地をめぐり、買い物などをする場合には、破傷風とかA型肝炎を1回受ければ十分ですが、宿の設備が良くない場合、バックパック旅行とかエコツアーの場合などには出来るだけ多くの種類を受けるのが良いと思います。旅先に熱帯熱マラリアのリスク地が含まれている場合にはマラリア予防薬の準備が必要になります。下表の渡航地域別に掲げた中からご自身の旅行形態に合わせて取捨選択してください。


地域
検討が必要な予防接種とマラリア予防薬
大洋州

破傷風、日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、腸チフス、コレラ、
マラリア予防薬

アジア

破傷風、日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、腸チフス、髄膜炎、ポリオ、コレラ、マラリア予防薬

中近東

破傷風、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、髄膜炎、腸チフス、
コレラ、マラリア予防薬

アフリカ

黄熱、破傷風、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、腸チフス、
髄膜炎、ポリオ、コレラ、マラリア予防薬

東欧

破傷風、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、髄膜炎、腸チフス、
ダニ脳炎、ジフテリア、コレラ

西欧

破傷風、A型肝炎、ダニ脳炎、髄膜炎

北米

破傷風、A型肝炎、狂犬病、髄膜炎

カリブ海

黄熱、破傷風、A型肝炎、B型肝炎、腸チフス、コレラ、
マラリア

中米

黄熱、破傷風、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、腸チフス、
髄膜炎、コレラ、マラリア予防薬

南米

黄熱、破傷風、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、腸チフス、
コレラ、マラリア予防薬




 長期滞在
 海外赴任時には勤務先から指示された予防接種を受けてください。お子様を同伴される場合には渡航先の定期予防接種にも注意してください。海外出張の場合にも、指示されているもので十分ですが、1年に何回も出かける場合には赴任者に準じた予防接種が必要になります。一般の旅行者が長期間旅行する場合には上の表から出来るだけ多種類を選ぶのが安全です。
 長期旅行の際には旅先により4〜6種類の予防接種が必要になります。黄熱などの生ワクチンは、接種回数は1回ですが、次の予防接種との間に4週間の間隔が必要です。生ワクチン以外は1週後から次の予防接種が受けられます。初めて受ける予防接種の場合には、通常、4週間隔2回の初回免疫と6か月以降の追加免疫が行われます。予防接種は完了までに長い時間がかかり、出発までに終わらなければ、現地で受けるか一時帰国時に日本で受けることになります。出国前に初回免疫接種だけは終えたいものです。海外赴任が決まったら出来るだけ早く開始してください。


2.予防接種の回数、間隔、免疫期間
 予防接種の回数と間隔はワクチン毎に決められています。下表は各ワクチンの添付文書から基礎免疫の接種回数と間隔、追加接種の時期、免疫期間・追加時期などを抜書きしたものです。

種類 基礎免疫 追加接種 免疫期間
又は
追加時期
回数 間隔
破傷風 2回 3−8週 6−18月 5−10年
日本脳炎 2回 1−4週 1年 4−5年
ダニ脳炎 2回 2−4週 9−12月 5年
A型肝炎 2回 2−4週 24週 記載なし(註1)
B型肝炎 2回 4週 20−24週 記載なし(註2)
狂犬病(国産) 3回 0、4週、6−12月 記載なし 記載なし(註3)
狂犬病(外国産) 3回 0、7、21又は29日 1年後 5年毎(註3)
腸チフス(注射) 1回 N/A N/A 3年
腸チフス(経口) 4回 2日 N/A 5年
髄膜炎:4価糖鎖 1回 N/A N/A 3年
コレラ(経口) 2回 1週 N/A 2年(60%)
経口ポリオ 2回 6週以上 N/A 記載なし(註4)
黄熱 1回 N/A N/A 10年
(註1)A型肝炎の免疫期間は、1回接種後は約1年、2回接種後は約2年、3回接種
    後は10年以上、6か月間隔2回接種後も10年以上と推測されています。
(註2)3回接種後の免疫獲得は約95%、免疫期間は約5年間です。
(註3)世界保健機関は中和抗体価が0.5IU/mL以下に低下した時点で追加が必要と
    勧告しています。
(註4)日本では2回接種後の免疫獲得は90%以上、免疫期間は10年以上とされて
    います。外国では3回以上接種されています。


3.同時接種
 同時接種は接種に出かける回数を減らす有効な手段です。例えば、アジア地域に赴任する場合には、通常、破傷風、日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、腸チフスなどの6種類の予防接種を受けることになります。破傷風は三種混合とか二種混合などのワクチンに含まれているので、定期接種を受けていれば、追加接種の1回で済みます。日本脳炎も同様に1回で済みますが、初めて受ける場合には、腸チフスの注射ワクチン以外は全て複数回受けなければなりません。1回に1種類づつ受ける場合には、10回以上出かけなければなりませんが、下の様な同時接種スケジュールで受ければ3回で済みます。1回に4〜5種類の接種になりますが、1回1種類と比べて副作用が特に強くなることはありません。また予防効果が低下するることもありません。


 三種混合と日本脳炎の定期接種を受けている場合
     1回目:A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、腸チフス
     2回目(4週以降):B型肝炎、狂犬病、破傷風、日本脳炎
     3回目(6か月以降):A型肝炎、B型肝炎、狂犬病


 定期接種を受けていない場合
     1回目:破傷風、日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病
     2回目(4週以降):破傷風、日本脳炎、B型肝炎、狂犬病、腸チフス
     3回目(6か月以降):破傷風、日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病


4.困った場合の対処法

 出発前に予防接種が受けられない
 赴任が決まってから出発までの期間が短い、ワクチンが足りない、などの理由で予防接種が受けられないことがあるでしょう。様々な理由で、止むを得ず中断しなければならないこともあるでしょうた。予防接種は、受けなければ効果はゼロですが、1回受けてもそれなりの効果があります。不完全な状態での渡航は好ましいことではありませんが、1回でも良いので、出発前に必ず受けてください。渡航先で始める場合には出来るだけ早く開始し、中断した接種は、遅れないように再開してください。その場合には、多分、違うメーカーの製品が使われると思います。日本のワクチンに限らず、外国の主な製品も、世界保健機関が定めた基準に合わせて製造されているので問題はありません。Hibワクチン、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチンなどでは、違う業者の製品を交互に接種し、十分な効果が得られたと報告されています。注射の間隔を短縮しても一定の効果があります。好ましいことではありませんが、日数が足りない場合には、初回免疫の間隔とか追加免疫までの間隔を短縮し、規定の回数を済まして出発するのも方法です。

 中断して長期間経過した
 初回免疫を済ませて赴任したが現地で追加接種が受けられないとか、初回免疫の途中で赴任したが現地で続けることが出来ないことがあるかもしれません。或いは、初回免疫を受けて赴任したが追加免疫の前に国内勤務になり、暫くして、また海外に赴任する様なことが起きるかも知れません。理由はともあれ、中断して長期間経過した場合には、迷わず接種を受けてください。その際、最初から始める方法と、続きから始める方法があります。2回受けなければならない初回免疫を1回だけの場合には最初からやり直すのが原則です。初回免疫が終了している場合には、多少の遅れがあっても追加免疫で十分な効果が得られます。特にA型肝炎などの様に初回免疫により100%抗体が陽転している場合には3−4年経過後でも追加免疫効果が期待されます。


5.2回目の追加時期
 海外勤務が長く続く場合、帰国後数年間の内地勤務の後で海外に赴任する場合などに追加接種が必要になります。基準はありませんが、上の表の免疫持続期間などが参考になるでしょう。短いものから挙げれば、経口コレラと腸チフス(注射)が2−3年、日本脳炎とB型肝炎が約5年、破傷風とA型肝炎が約10年です。上の表では狂犬病の免疫持続期間が6か月ですが、狂犬病は非常に危険な病気なので、予防接種による抗体の有無に関わらず、疑わしい動物に咬まれた場合には追加接種を受けならない特殊な例です。5年以上経過した後で危険地域に長期滞在する場合には念のために追加を受けるのが良いと思います。黄熱は予防接種証明書の有効期間が10年なので、10年以上経過した場合には再接種が必要です。証明書を紛失した場合には、10年経過していなくても再接種が必要になります。


6.予防接種を受ける際の注意事項
 禁忌
 ワクチンの成分によりショックとかアナフィラキシー様症状(蕁麻疹、血圧低下、呼吸困難、血管浮腫などの症状を伴う重篤な過敏反応)を起こしたことがある場合には予防接種は受けられません。発熱している場合、重篤な急性疾患にかかっている場合、予防接種が出来ない状態の場合などにも予防接種は受けられません。これらの禁忌は上表の各ワクチンに共通していますが、経口腸チフス、経口ポリオ、黄熱などの弱毒生ワクチンの場合には、免疫機能に欠陥がある患者、免疫を抑制する薬剤を投与されている患者、妊婦、なども受けることが出来ません。日本では生後9か月未満の幼児は黄熱ワクチンも禁忌とされています。
 要注意
 心臓血管系、腎臓、肝臓、血液などの持病を持っている方、妊娠している方、予防接種の後で、発熱、発疹、蕁麻疹などの症状が現われた方、薬の服用や食事の後で発疹や蕁麻疹が現われた方、けいれん発作がある方、注射や採血で失神発作が起きた方、免疫異常を指摘されている方などは医師に申し出て、接種の可否を判断して貰う必要があります。
 接種を受けた後の注意
 極めて稀ですが、接種直後に急な副反応が現われることがあるので、少なくとも10分間は注射を受けた場所か近くに留まり、唇の腫れ、呼吸困難その他の違和感の発生に注意してください。数時間以上経過後に、稀に、発熱、発疹、蕁麻疹、紅班、などの症状が現われることがありますが、2−3日で治るので心配は要りません。注射を受けた場所に現われる、痛み、痒み、赤い腫れなども2−3日で治ります。
 生ワクチンの後で、1−2週経過後に、稀に、発熱などの症状が現われることがあります。これは本来の病気の一部の症状が現われるためで、軽症で終わるので心配は要りません。極々稀ですが、一部のワクチン接種後に重い副作用が現われることがあります。高熱、けいれん、などの異常な症状が現われた場合には、急いで医師の診断を受けてください。
 ワクチン接種後は接種場所を清潔に保ち、過激な運動、暴飲暴食は避けてください。入浴は差し支えありません。


7.妊娠中の予防接種
 妊婦に対する生ワクチン接種は禁止されています。妊娠中に風疹とか水痘に感染すると先天性奇形児が生れることがあり、軽く感染させて免疫をつける生ワクチンには胎児に対する影響が潜在すると考えられるからです。例外的に黄熱ワクチンだけが要注意とされ、添付文書には「予防接種による有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること(妊娠中の接種に関する安全性は確立していない。また17Dワクチンウイルスは経胎盤感染の可能性が示唆されている。)」と記載されています。
 妊婦に対する不活化ワクチン、成分ワクチン、トキソイドなどの接種は禁忌ではありません。日本では要注意とされ、添付文書には「妊娠中の接種に関する安全性が確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性がある婦人には接種しないことを原則とし、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること」と記載されています。但し、妊婦の接種による胎児傷害は仮定上のもので、実証されているわけではありません。
 外国では、新生児破傷風の予防目的で妊婦に対する破傷風の予防接種が広く行われています。米国では妊婦に対するインフルエンザの予防接種が勧告されています。また、B型肝炎に感染する危険がある妊婦とか、A型肝炎、髄膜炎、肺炎球菌などに感染する危険が強い妊婦に対し予防接種が勧告されています。


8.授乳中の予防接種
 予防接種は母乳を与えている女性と飲んでいる幼児の両方に無害です。授乳中の予防接種は差し支えありません。
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