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感染症情報

昆虫が媒介する病気

1. ウイルス感染症
1 蚊が媒介する病気
日本脳炎

病原体:日本脳炎ウイルス
ワクチン:不活化日本脳炎ワクチン、弱毒生ワクチンなど
治療薬:なし
感染源:日本脳炎ウイルスに感染している媒介蚊に刺されて感染します。
分布:北はサハリンから南はクイーンズランド、東は日本から西はパキスタンまで地域に分布しています。
感染経路:日本脳炎の媒介蚊は日本ではコガタアカイエカで、重要な感染動物はブタです。感染仔豚を吸血したコガタアカイエカの唾液腺でウイルスが増え、次の吸血時にウイルスを注入して感染させます。ヒトは感染仔豚を吸血した蚊により媒介されます。日本脳炎は、日本では稀な病気になりましたが、毎年、多数の仔豚の感染が発生しています。仔豚の感染は、毎年初夏に沖縄から始まり、北上して北海道に上陸する頃に秋になり、止まります。日本ではこの様な季節変動がありますが、媒介蚊が年中発生している地域では季節変動はありません。雨季と乾季に分かれている地域では、蚊の発生に合わせて、雨季に多く、乾季に少なくなります。
主な症状:日本脳炎ウイルスに感染しても、発病するのは100〜1000人に1人程度と言われています。発病例では、6〜16日間の潜伏期の後、38℃以上の発熱、頭痛、悪心、嘔吐などの症状が現われ、続いて意識障害、麻痺などの脳神経症状が現われます。致死率は20〜40%とされ、生存者の45〜70%に痙攣、麻痺、知恵遅れ、精神障害などの重い障害が残ります。
治療は対症療法です。予防は:蚊を防ぐ対策と予防接種です。約50年前に感染マウス脳乳剤を原料とする不活化ワクチンが開発されました。その後改良が進められ、効果と安全性が優れた製品になり、現在、米国やアジア諸国に輸出されています。日本では、日本脳炎が発生しない北海道を除き、3〜14歳の間に都合5回、予防接種が行われてきましたが、2006年から5回目の接種が中止されています。1982年から1997年までの15年間に国内で発病した324名の日本脳炎患者の調査により、患者の99%がワクチン接種を受けていなかったことが明らかにされ、予防効果が確認されました。
最近、中国で弱毒生ワクチンが開発され、世界保健機関の承認を受け、中国、インド、タイ、その他の国で使用されています。このワクチンは日本では承認されていません。


その他の蚊が媒介する脳炎

世界各地にヤブカとかイエカ類が媒介するウイルス脳炎が存在します。いずれも治療薬とかヒト用のワクチンはありません。ヒトの感染に先立ってトリやウマの病気が発生するので、その様な情報が出た場合には、流行地域に入らないとか、蚊に刺されない対策などが必要になります。
西部ウマ脳炎 主に米国とカナダに分布しています。野生の小動物、鳥類、ウマなどが主な感染動物です。脳炎が発症した場合には10〜15%が死亡し、回復者に精神的後遺症が残ると言われています。1964年以降の米国の発生数は639例だそうです。
東部ウマ脳炎
 カナダから、中米、カリブ海、南米東岸のアルゼンチンまでの地域に分布しています。野生の鳥類が主な感染動物で、まれにウマなどが感染します。ヒトが感染しても、通常、無症状です。しかし、発病すると35%が死亡し、回復しても35%が後遺症を残すとされています。1964〜2004年の間に220例発生したとのことです。
セントルイス脳炎
 北米、カリブ海、中米、南米諸国に分布しています。野生の鳥類とニワトリが主な感染動物ですが、ヒトの間にも流行します。感染者の1%未満に、発熱、頭痛、嘔吐など症状が現われます。発症後1〜2週間で解熱し、後遺症を残さないで回復する、予後が良好な病気ですが、高齢者には重症例があります。1974〜1977年の米国中西部地域での流行時には約2500例発病しました。
マレー渓谷脳炎
 オーストラリアとパプアニューギニアに存在する日本脳炎ウイルスに似たウイルスによる病気です。鳥類が自然宿とされています。
ラクロス脳炎
 米国とカナダの森林地帯で発生する病気です。リスなどの小動物が自然宿主で、年間70例発生しています。
ベネズエラウマ脳炎
 中米諸国と南米のコロンビアとベネズエラで発生する、西部ウマ脳炎や東部ウマ脳炎に似たウイルスによる病気です。

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黄熱

病原体:黄熱ウイルス
ワクチン:黄熱ワクチン(弱毒生黄熱ウイルスワクチン)
治療薬:なし
感染源:黄熱ウイルスに感染している媒介蚊
分布:黄熱ウイルスはアフリカと南米の熱帯地方の病気です。流行地ではサル類とネッタイシマカの間に感染の輪があり、偶発的にヒトが感染します。ヒトが感染すると、ヒトとネッタイシマカの間に感染の輪が作られ、黄熱が流行することがあります。
主な症状:蚊に刺されて3〜6日後に、突然、発熱します。4〜5日後に、一度解熱し、再度発熱して、黄疸、皮下出血、鼻出血、吐血などの症状が出現し、死亡しないで助かる場合には、発病10日頃から徐々に回復します。致死率は20%以上とされています。治療法はありません。
予防:黄熱は弱毒生ワクチンの接種により、100%予防できます。黄熱ワクチンは世界保健機関(WHO)が承認したワクチン製造所で製造されています。WHOが承認した医療機関で接種を受けて国際予防接種証明書を受け取り、黄熱の常在国に渡航します。黄熱の非常在国でも、媒介蚊と野生宿主が生息していれば黄熱の侵入と流行・定着の危険があり、常在国からの入国者、常在国経由の入国者などに国際接種証明書の提示を求めることがあります。


デング熱

病原体:デング熱ウイルス
ワクチン:なし
治療薬:なし
感染形態と感染源:ヤブカ類が媒介します。主な感染動物はヒトです。媒介蚊が多発する雨季に流行します。
分布:世界中のほとんどの熱帯と亜熱帯に分布しています。
主な症状:デング熱は感染の約1週間後に急激に発病します。発熱が主症状で、頭痛、関節痛、筋肉痛、嘔吐、発疹などを伴いますが、1〜2週後に自然に治ります。デング熱ウイルスには4種類の血清型があります。同じ型のウイルスは再感染しませんが、違う型には感染するので、流行地では何回も発病することがあります。デング熱ウイルスに感染後すると、出血傾向、ショック症状などを伴うデング出血熱になることがあります。デング出血熱は流行地の小児に多い病気です。旅行者のデング出血熱は稀とされています。アスピリンは出血傾向を助長するのでデング熱の解熱剤として使用してはいけません。重症の場合にはデング出血熱に備えて入院治療が必要です。ワクチンはありません。治療は対症療法です。
予防:蚊に刺されない注意が重要です。デング熱は都市でも発生するので、デング熱の流行情報に注意しましょう。

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西ナイル熱

病原体:西ナイル熱ウイルス
ワクチン:なし
治療薬:なし
感染形態と分布:自然宿主は鳥類で、イエカ類が媒介します。哺乳類ではヒト、ウマなどが感染し、媒介蚊の発生時期に合わせて、夏期に感染が増え冬期に少なくなります。アフリカ中部、東部などの地方病と考えられていましたが、1950年代にイスラエル、1970年代に南アフリカなどで流行し、1990年代には西欧諸国で発生しました。1999年に米国に上陸して東海岸から西に広がり、2004年に西海岸に到達し、アラスカとハワイを除く米国全土が汚染地域になりました。現在、メキシコ、カリブ海諸国などの周辺国に拡大中です。ヒトの流行に先立ち多数のカラスが死亡します。
主な症状:米国CDCの資料には、発病率は約20%、軽症が多く、重症化は1%未満と記載されています。蚊に刺されて1〜2週後に、急に発熱し、多くの場合、頭痛、筋肉痛、関節痛、発疹などを伴い、数日後に自然に回復します。高齢者は脳炎などを起こすことがあります。安静と対症療法以外に特別の治療法はありません。
予防:蚊に刺されない注意が大切です。昼間刺す蚊も夜間に刺す蚊も西ナイルウイルスを媒介します。媒介蚊は空き缶や空き瓶などの一寸した水溜りでも増えるので、米国では家の周りなどの清掃を呼びかけています。

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2 マダニが媒介する脳炎、出血熱
ダニ媒介性脳炎

病原体:ダニ媒介性脳炎ウイルス
ワクチン:ダニ脳炎ワクチン
治療薬:抗ダニ媒介性脳炎免疫グロブリン
分布:ロシア春夏脳炎と中部ヨーロッパ脳炎の2種類があります。両者は流行地と臨床症状により区別されていますが、原因ウイルは血清学的には区別できません。ロシア春夏脳炎は主にシベリアの森林地帯の病気ですが北海道にも存在します。中部ヨーロッパ脳炎は、バルト海からバルカン半島諸国、ドイツ東部の地域に分布し、軽症とされています。
感染経路と感染源:森林に生息しているマダニが媒介します。ウイルスは卵を介する垂直感染により次世代のマダニに受け継がれますが、一方で、ネズミなどの小型野生動物との間に水平感染の輪があります。マダニが成虫になると大型の動物や家畜を咬むようになり、ヒトが咬まれて感染します。感染動物の生乳も感染源になります。
主な症状:マダニに咬まれて1〜2週後に発病します。最初に風邪のような症状があり、頭痛、発熱、悪、嘔吐などの髄膜炎症状から脳炎へと進展します。ロシア春夏脳炎は、致死率が約30%で回復後に後遺症が残りやすいとされています。中部ヨーロッパ脳炎は症状が軽く、致死率は1〜2%です。マダニに咬まれた後でダニ媒介性脳炎が疑われる場合に、抗ダニ媒介性脳炎免疫グロブリン製剤を注射すれば重症化が抑えられるとされています。その他対症療法が行われます。
予防:流行地ではマダニが活動する季節に森林に入ってはいけません。やむを得ないで立ち入る場合には、長袖シャツ、長ズボン、靴、手袋などを着用します。更に、肌の露出部にDEET(ディート)入りの昆虫忌避剤をスプレーし、上着などにペルメトリン入りの虫除け剤を散布すると効果があるとされています。生乳を飲まないこと、ダニに咬まれたらすぐ払い落とすこと、なども重要です。欧州やカナダでは不活化ワクチンの注射を受けることができます。ロシア春夏脳炎と中部ヨーロッパ脳炎の予防効果があるとされています。ダニ脳炎ワクチンは日本では認可されていません。

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クリミア・コンゴ出血熱

この病気はマダニが媒介しますが、感染動物、患者などの血液や排泄物との接触により感染することもあります。空気感染は否定されています。この病気は中央アジアからアフリカに広く分布しています。潜伏期はダニに咬まれた場合は3日ですが、患者や感染家畜の血液などに接触した場合は約1週間です。発症率は約20%で、突然に発熱し、頭痛、関節痛、筋肉痛などが発生します。コンゴ熱は比較的良性で、クリミア熱は悪性とされています。重症例では皮下、粘膜などの出血があります。致死率は15〜40%です。予防ワクチンなどはありません。治療は対症療法です。常在地では、家畜に接触する獣医師、医師、看護師などの医療従事者などは特に注意する必要があります。感染予防には、ガウン、手袋、マスクなどを着用します。


その他のダニ媒介性出血熱

 オムスク出血熱(ロシア)、キアサヌール森林熱(インド)、コロラドダニ熱(米国)などが限定された地域に存在します。これらはクリミア・コンゴ出血熱より軽い疾患です。

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2. 細菌感染症
ペスト

病原体:ペスト菌
自然宿主:ネズミなどの山地の小動物
媒介昆虫:ノミ
感染形態:感染ノミに咬まれる場合と空気感染があります。
ワクチン:不活化ワクチン
治療薬:ニューキノロン抗菌薬など
分布:14世紀に中国からヨーロッパにかけて黒死病が大流行し、以来、非常に恐れられてきた病気です。現在も南アフリカとマダガスカル地域、ヒマラヤ山脈からインド北部地域、雲南省からモンゴルにかけての地域、北米ロッキー山脈地域、南米アンデス山脈地域などに常在しています。 主な症状:潜伏期は2〜7日です。感染ノミに咬まれた場合には、発熱などの全身症状に続いてリンパ節が腫れて潰瘍を起こす腺ペストになります。敗血症に移行するとショックなどを起こします。肺ペストは空気感染する病気です。ヒトからヒトへの感染中に2次的に発生する病気で、野生動物からの直接感染では発生しません。
治療と予防:治療にはニューキノロン系の抗菌薬などが使用されます。不活化ワクチンの予防接種は検疫所で受けることができます。一般の人がペストに感染する危険はありませんが、ペストの常在地で野性動物の研究をする場合などには注意が必要です。


野兎(やと)病

腺ペストに似たリンパ節が腫れる、日本でも古くから知られていた病気です。野兎病菌はウサギやネズミなどの野生の小動物が感染していて、マダニなどが媒介します。最近、プレーリードッグの感染が明らかになり、話題になりました。ストレプトマイシンなどが治療に使われます。米国で弱毒生ワクチンが開発され、実験室感染を防ぐために使用されているようですが、一般には使用されていません。


ライム病

ボレリアと呼ばれる菌が病原体です。この菌はネズミとか小鳥などの野生小動物に感染していて、マダニが媒介します。髄膜炎や末梢神経麻痺などを起こす病気で、毎年欧米で多数発生し、日本でも発生しています。テトラサイクリンなどによる治療が行われます。ワクチンはありません。

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3. リケッチア感染症
発疹チフス

発疹チフスリケッチアが病原体で、コロモジラミが媒介します。通常、コロモジラミに咬まれて感染しますが、糞に多量の病原体リケッチアが排泄されているので、空気感染も否定できません。この病気は社会が混乱期に多発し、日本でも大戦後の衛生環境の悪い時期に流行しました。現在は中央アフリカのブルンジ、エチオピア、ルワンダなどの一部の地域で発生しています。コロモジラミに咬まれると、10日前後の潜伏期のあとで、突然、高熱が出て全身に淡紅色の発疹が広がります。治療をしない場合の致死率は10〜60%とされていますが、テトラサイクリンなどで治療します。予防はコロモジラミの駆除と患者を入院させることです。


紅斑熱

マダニが媒介する病気で、世界各地に存在します。北米のロッキー山紅斑熱が代表的ですが、他の地域にも地中海紅斑熱、クイーズランドチフス、日本紅斑熱などがあります。病原体リケッチアは卵を介する垂直感染で次世代のマダニに伝えられます。ヒトや動物がマダニに刺されて感染します。潜伏期は3〜14日で、高熱が2〜3週間続き、斑状の丘疹が全身に広がり、出血斑に移行します。ロッキー山紅斑熱はかなり重症で、ショックで死亡することがあります。テトラサイクリンなどで治療します。ワクチンはありません。流行地では山野に立ち入らないのが安全です。やむを得ず立ち入る際には、長袖シャツ、長ズボン、手袋、靴などを着用する、DEET(ディート)入りの昆虫忌避剤を使用する、などの注意が必要です。


ツツガムシ病

ツツガムシが媒介し、主にネズミなどが感染しています。ツツガムシ病リッケチアは卵を介する垂直感染で次世代のツツガムシに伝えられます。分布地は、日本、東南アジア、パプアニューギニアなどです。媒介昆虫に咬まれると、約10日後に高熱が出て1〜2週間持続します。斑状の紅斑が出現し、髄膜炎などの合併症を起こすことがあります。テトラサイクリンなどで治療します。ワクチンはありません。予防は媒介昆虫に咬まれないことです。

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4. 寄生虫感染症
マラリア

病原体:熱帯熱、三日熱、四日熱、卵型の4種類のマラリア原虫
ワクチン:なし
治療薬:あり(キニーネなどの抗マラリア剤)
感染源:マラリア原虫に感染したハマダラカ
分布:熱帯から温帯にかけて分布しています。
生活史:マラリア原虫はヒトとハマダラカに寄生し、ヒトの体内での増殖は無性的な分裂増殖ですがハマダラカの体内では有性増殖です。蚊の体内で増殖したものはスポロゾイトと呼ばれ、ヒトの体内に侵入すると肝細胞に感染し、分裂増殖してメロゾイトに変身します。メロゾイトは赤血球に感染して赤血球を破壊します。赤血球中でメロゾイトが増殖するために必要な時間は、熱帯熱、三日熱、卵型の三種類は2日で、四日熱は3日です。メロゾイトが感染した一部の赤血球からオスとメスの生殖母体(ガーメットサイト)が作られ、吸血したハマダラ蚊の体内で雌雄の生殖母体が合体してオーシストになり、10〜18日後にスポロゾイトが放出されます。
感染経路:マラリア原虫は100種類以上存在しますが、熱帯熱、三日熱、四日熱、卵型の4種類だけがヒトに感染性です。ハマダラカ属の蚊も400種類以上ですが、30〜50種類が、メスの体内でオーシストが生育できる、寿命がオーシストの成熟日数より長いなどのマラリア媒介の必要条件を備えているとされています。標高1500〜1800メートル以上の熱帯高地ではマラリアの危険がないとされていますが、気温が低いためにオーシストの生育が遅延しスポロゾイトを放出する前に蚊の寿命がつきてしまうためです。
主な症状:マラリア原虫はハマダラカには無害ですが、ヒトの体内では肝細胞や赤血球が破壊されます。破壊された赤血球などから放出される毒性物質によりマクロファージなどが刺激されてサイトカインが分泌され、その作用により、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛などの症状が発生します。
潜伏期はマラリア原虫の種類により違います。熱帯熱の潜伏期は5〜12日ですが、三日熱、四日熱、卵型などは少し長めで、通常、10〜30日ですが、稀に、数か月後に発病することがあります。潜伏期の後に倦怠感、頭痛などの前駆症状が現われ、突然、高熱が出て数時間後に多量に発汗して解熱します。その後は、感染したマラリア原虫の増殖サイクルに対応して、3日乃至4日毎に発熱が繰り返されます。赤血球の破壊が繰り返されると貧血や栄養障害が発生します。熱帯熱マラリアは脳症を起こすことがあります。熱帯熱マラリアのメロゾイトが感染した赤血球は細い血管の内壁細胞に付着し易い性質があります。血栓が形成されると、出血傾向、脳症、腎障害、出血斑、血色素尿(黒水熱)、などが誘発されます。
治療:マラリアにはキニーネなどの抗マラリア剤治療が効果的です。重症の熱帯熱マラリアも発病初期の抗マラリア剤治療により脳症を防ぐことができます。東南アジア地域とか南米のアマゾン河口地域などにはクロロキン、メフロキンなどの予防・治療薬に抵抗性の多剤耐性マラリアが存在します。多剤耐性マラリアはキニーネに対する感受性が低下しているので治療が困難とされていました。現在ではキク科ヨモギ属のクソニンジン(和名)から抽出されたアルテミシニン誘導体などによる新治療法が行われています。
熱帯熱マラリアの危険地域に立ち入り、一週間以上経過後に発熱した場合には、発熱後24時間以内に適切な治療を受ける必要があります。交通が不便な地域、適当な医療機関が無い地域などに出かける場合には、前もって医師から待機治療薬の処方を受けておき、疑わしい症状が現われた場合には直ちに服用し、できるだけ早く医療機関に受診するのがよいとされています。
予防:蚊に刺されないのが最善の予防対策です。ハマダラカが多発する季節が特に危険です。雨期と乾期が分かれている地域では雨期、温帯では夏が危険な時期です。ハマダラカは夕方から明け方まで吸血する習性を持っています。エアコンが設置されていない部屋に宿泊する場合には、ピレスロイドなどの防蚊薬を練りこんだ特殊な蚊帳とか蚊取り線香などが必要です。夕方からの外出時には、長袖シャツや長ズボンを着用し、肌の露出部にディート(DEET、ジエチルメチルトルアミド)、バイレペル(Bayrepel、1-piperidinecarboxylic acid, 2-(2-hydroxyethyl)-1-methylpropylester)などの昆虫忌避剤を塗布するのが良いとされています。マラリアの危険地域で雨期に田舎方面に旅行する際には、マラロン、メフロキン、ドキシサイクリン、経口キニーネなどの種々の予防薬が必要です。現地の状況とご自身に適した薬剤を選ぶ必要があります。メフロキン製剤(メファキン)とドキシサイクリンは日本で入手できますが、他の予防薬は現地で購入することになります。偽薬が多いと言われているので、医師から処方を受けて購入し、指示を守って服用してください。

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リンパ管フィラリア症

熱帯に広く分布しています。バンクロフト糸状虫、マレー糸状虫などのミクロフィラリアが蚊の媒介により感染して発病する病気です。成虫はリンパ管とかリンパ節などに寄生して多数のミクロフィラリアを産生します。ミクロフィラリアはリンパの流れを妨害し、数年後に、陰嚢水腫、象皮病、乳び尿などの症状が現われます。感染した場合には、早期から、好酸球が非常に増多します。血液中にミクロフィラリアが検出されたらイベルメクチン、ジエチルカルバマジンなどの薬物で治療します。症状が出た後では治療しても効果がありません。ワクチンはありません。蚊に刺されない注意が大切です。


オンコセルカ(回旋糸状虫)症

中部アフリカ諸国に広く分布し、メキシコ、コロンビアエクアドル、ベネズエラ、ブラジルなどの一部にも存在します。ブユが媒介する病気です。オンコセルカの成虫はヒトの皮下に腫瘤を作り、ミクロフィラリアを産生します。ミクロフィラリアが眼球に迷入すると結膜炎や角膜炎を起こし、失明します。この病気は河川の流域に多いので河川失明病(river blindness)と呼ばれています。腫瘤からミクロフィラリアが検出されると診断が確定します。薬物(イベルメクチンなど)で治療します。ワクチンはありません。流行地ではブユに刺されない注意が大切です。


睡眠病

アフリカの風土病で西部から中部アフリカの病気と東アフリカの病気があります。病原体はトリパノゾーマと呼ばれる寄生原虫で、ツェツェバエが媒介します。東アフリカでは沼沢地などに限局して野生動物が感染し、偶発的にヒトが感染します。西部と中部アフリカでは約10年周期で家畜の間で流行し、流行時にヒトが感染します。感染すると血液、リンパ液、髄液などで原虫が増え、1〜3週後に発熱、発赤、浮腫、リンパ節の腫脹などに続き髄膜脳炎が起きます。東アフリカの病気は西アフリカの病気より急速に進行し、治療しないと死亡します。ワクチンはありません。薬物療法で完治しますが、早期診断、早期治療が重要です。予防はツェツェバエに刺されないことです。原地の住民はツェツェバエの発生地を知っているので、情報を聞きましょう。昆虫忌避剤はツェツェバエには無効です。ツェツェバエは薄い生地は簡単に刺し通します。織が緻密な厚手の生地の衣服で、周囲の景色に溶け込む目立たない色合いが良いとされています。

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シャガス病

メキシコからチリ、アルゼンチンにかけて広く分布しているトリパノゾーマ症で、特に多いのはブラジル、アルゼンチン、ベネズエラの3国です。アフリカのトリパノゾーマと異なり、媒介昆虫はサシガメと呼ばれるカメムシの一種です。サシガメに刺されると感染しますが、糞から感染することもあります。感染の初期に目やリンパ節の腫れとか疲労感がでる場合があるとされていますが、大多数は無症状です。10〜20年後に慢性肝機能障害、脾臓腫大、慢性心筋炎などが発生し、始めて感染が明らかになる場合が多いようです。流行地では毎年5万人以上感染し、全体で1800万人の患者が存在すると推定されています。慢性感染症なので感染者の血液を輸血されて感染する場合もあります。血液中の抗体検査で診断します。ワクチンはありません。早期診断、早期治療により治ります。流行地で生活する場合には、サシガメに刺されなくても、定期的に健康診断を受ける必要があります。


リューシマニア症

日本に生息していないサシチョウバエ(sand fly)と呼ばれる小さな吸血昆虫が媒介する病気です。病原体はリューシマニアと呼ばれる寄生性の原虫で、家畜、飼い犬、イヌ科の野生動物などとサシチョウバエの間に生活環があり、偶発的にヒトが感染します。この病気は世界各地の熱帯、亜熱帯、温帯地域に広く分布していて、皮膚型と内蔵型に大別されます。
皮膚型は、刺された場所が腫れて硬くなり、かゆみが何か月も続きます。治療をしなくても、数年後に潰瘍を作って自然に治ります。アフガニスタン、イラン、イラク、シリア、サウジアラビア、アルジェリア、ブラジル、ペルーなどが皮膚型の多い地域です。
内蔵型はカラアザールと呼ばれています。感染して何か月も経過後に、発熱、体重減少、貧血、脾臓と肝臓の腫脹などの症状が起きます。発症した場合には治療を受けないと死亡します。バングラデシュ、インド、ネパール、スーダン、ブラジルなどが内蔵型の多発地域です。ワクチンはありません。内蔵型は血清中の抗体検出により診断します。サシチョウバエは音も無く近づき、知らないうちに刺さしてしまう、厄介な虫です。夕暮れから活動がさかんになりますが昼間でも刺すようです。長袖シャツと長ズボンの着用、昆虫忌避剤のスプレーなどが効果的です。
 オーストラリアその他の南太平洋地域にもサシチョウバエは生息しています。この地域にはリューシマニアは存在しませんが、サシチョウバエに刺されると非常にかゆいので、昆虫忌避剤の使用がすすめられています。

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